よい組織、よいチームには掛け算の組織力学がある。つまり、自分より優秀な人物を(別け隔てなく)歓迎し、時には引き上げ、巻き込む事で、互いにレバレッジをかけて共通の目的を達成しようという風土があり、それは事業推進においても強力な動力として作用する。
一方で、悪い組織、悪いチームには得てして引き算の組織力学が働いている。そこでは限られたパイを奪い合う弱肉強食的な風土が蔓延し、次第に共通の目的よりも個々の保身、政治的な仕草が蔓延るようになる。
一般に大企業、と言われる企業ほど、ここで言う引き算的な組織力学が強くなりやすいように見える。人材の流動性に乏しく(しかも往々にして年功序列であり)、かつ市場成長性に限界のある場合、組織ピラミッドの維持を所与とすればその内部で起きるのはパイの奪い合い、というのは自明である。
若者がスタートアップ・ベンチャー企業に興味を持つのは、市場、或いは組織としての成長・拡大フェーズにおいては掛け算的な力学が機能しているように傍目には見え、それが魅力的に映るのだろう。しかし、真に成長・拡大している組織であれば、そこに集う人材の流入も同じペースで起きるはずであり、従って大企業と比較しても大局的に見ればトントン、と言ったところであろう。従って、必ずしも外形的な要素でもって判断できるものでもない。何より、掛け算の組織力学を持っている組織は非常に少ない。これはひとえにトップの器そのものだという気がする。
すべては、自分の存在意義が問われる程に優秀・格上の人間を引込む事で自分も成長し、自分の目的を達成したいという揺るがざる志、確たる自信を持つ人をどれだけ集める事ができるか否かにかかっているのだ。それが"エクセレント・カンパニー"の定義だと思っている。
余談
『起業の天才!―江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男 』(大西 康之著)を読んだ。そこにこんな一節がある。
アメリカ・シリコンバレーの新興企業に投資する有力ベンチャー・キャピタル(VC)が、見込みがあると判断した若い起業家に必ず出す〝宿題〟がある。 「君のアイデアが素晴らしいのは分かった。だが、それを実現するにはチームが必要だ。君より優秀な人間を3人集めて来たら、カネを出そう」
<中略>「ユニコーン(幻の一角獣=10億ドルを超える企業価値を持つ未上場ベンチャー)」を立ち上げる人間は、優れたビジョンと、そのビジョンの実現のために優秀な人間を巻き込んでいく力を兼ね備えた人間でなくてはならない。
頷けるものがある。江副という人物についても、自分にない才能を巻込む類まれなる力があったようだ。