財務モデリング入門(独学用リンク集)

 

 

はじめに

先日、財務モデリングについて何気なくTweetしたところ、思わぬ規模の反応を頂いた。その反応を見るにつけ見様見真似で学習を始めた当時の自分と同じ悩みを持つ人、又は関心があるがどう勉強したらよいか分からず途方に暮れている、という人は少なくないのだろうと推察した。そういった人達のニーズに少しでも応える事ができればと、当時の自分の助けになった書籍・リンク集を以下にシェアしたいと考える次第である。

 

1. 前提知識(会計編)

『財務3表一体理解法』[著: 國貞克則] ...そもそも会計/財務って何?という人のはじめの一冊として最適。財務三表が有機的にどう繋がっているのか、ということが感得できる。新書形式で分量も少なく、読みやすいのも良い。

 

『財務会計講義(第21版)』[著: 桜井久勝] ...公認会計士試験受験者の鉄板本、という事で購入。勘定科目の意味や各種会計基準について、簡潔に要諦が記載されている。末永く辞書的に使える一冊。当たり前だが、勘定科目や仕分けのルール、会計基準を知らずして財務モデルは組めない。なお、それなりに一般教養がある(と思われている)人でも内部留保と現金を混同した議論を行っているのが散見される。やはり複式簿記は教養であると思う(ちなみに自分も学生時代は内部留保と現金の違いは知らなかった、というか資産と純資産の違いすら分かっていなかったので余り偉そうな事は言えない)。

 

2. 前提知識(財務/M&A編)

『企業買収の実務プロセス』[著: 木俣貴光] ...M&Aの全プロセスが会計、法務、税務の主要論点も含めてまとめられており、全体像が網羅的に把握できる。なお、バリュエーションは企業の価値を測るものだが、そもそもM&Aとは取引、交渉であり価格で合意に到れるかがクロージングの論点となる(これを混同してはならない)。そういう意味で、どういうプロセスを経て価格が定まるか、また担当者、アドバイザー、その他関係者がどういう動きをするのかを知っておくべきだろう。

 

『コーポレートファイナンス 戦略と実践』[著 田中 慎一、保田隆明]... 類書と比べて段違いに実践・実務的。非常に現場感がある良書。最近(2019年)の出版だが、これは今後の決定版になるはず。また、随所に筆者のバンカーとしての矜持と含蓄が染み渡っているのも良い。

 

『企業価値評価 バリュエーションの理論と実践 第6版』[著: マッキンゼー・アンド・カンパニー] ... 言わずとしれた世界的な決定版。上掲書との比較で言うと、こちらは理論に寄っている。矢張り困った時のマッキンゼーという貫禄で、実務で悩んだ論点も本書を調べればヒントが見つかる事が多い。結構値段が高い為躊躇されるが、とりあえず上巻だけは読む事を薦めたい(デスクに置いているだけで格好イイ)。

 

『Investment Banking: Valuation, Leveraged Buyouts, and Mergers and Acquisitions』 [著: Joshua Rosenbaum、Joshua Pearl] ... 著者は元UBS投資銀行部門のMD。海外のIBD志望者の定番。英語かつ高価だがさすが定番、一読の価値あり。CFA試験対策の学習用教材としても使える。

3. 財務モデリング

書籍で原理・原則を学んだ後は、分からないところは適宜ブログで調べつつ、実際に手を動かしながら学習を進めていくのが良いと思う。自分自身、諸先輩方の書き残したブログからは大いに助けて頂いた当然、最初は時間がかかるが遠回りこそ近道、苦労して得た知識こそ骨太の土台になる。自分は任意の企業を選んで、そこから①PLとBSをExcelに転記した上で、②将来5年分の事業計画をPL、次にBSと紐付けCFを作成し、④FCF、WACC/Comps等を算出して、⑤企業価値/株式価値を算出するという様にした。

具体的な手順として、作法を学ぶ、作業イメージを持つ、自分でモデルを組んでみる、という3つのプロセスに分解できると思う。以下、順に紹介する。

 

3-1: 作法を学ぶ

書籍編:

『外資系金融のExcel作成術』 [著: 慎泰俊] ... 実例を見ながら財務モデルの組み方が学べる。各シートの設計から、フォントや色、罫線の使い方等、”作成のお作法”指南が丁寧。良く使う関数一覧、ショートカット集が掲載されているのも良い。

 

『事業再生の実践〈第1巻〉デューデリジェンスと事業再生計画の立案』 [産業再生機構] ... 少し毛色が異なるが、財務モデルを作る際のシナリオ分化やドライバ設定の考え方を学ぶに格好の教材。事業再生という緊張感ある局面で、事業計画精査、DD実施、メイン銀行との交渉等過程を経てどの様に事業計画が最終的な財務モデルに落とし込まれたかが詳述されている。所謂モデリングのスキルを学ぶ為のものではない。しかし、単なる数字遊びでなく、現場のリアリティまで深く思考を巡らせた上でモデルへと還流する、という財務モデリングの本質を体得できる傑出した書籍であると思う。

P.260~P.283の23頁に書かれた「数値計画の策定/金融支援額の算定」だけでも一読の価値あり(絶版の為中古しか手に入らない模様。再版が望まれる)。

 

ブログ編:

金融スキル向上のためのオンライン学習サイト|壁の道の向こう側さん

DCFモデルは勿論、M&ALBO、キャッシュスイープモデルまで学べる。かなり本格的で、実務でそのまま使えるレベル感で体系立って解説されている。入門編のExcelシートが無料でダウンロードできるので、初学者はとりあえずこのサイトから学ぶのが良い。セルの循環参照がなぜ発生するのか、そしてExcel上はどう初期設定すべきか、という基礎から一歩ずつ学ぶ事ができる。

  

井上ひろのコーポレート・ファイナンスblog|井上ひろさん

財務モデルを扱ったブログとして大御所的(?)存在。Excelシートがダウンロードできなくなったのは非常に残念だが、丁寧な解説かつ軽妙な語り口で読みやすい。モデリング以外の記事も大変勉強になる。

 

ベンチャーキャピタリストへの道|ベンチャーキャピタリストへの道さん

専門とされているベンチャー企業のバリュエーション等、類書では解説が充実していない箇所について手厚いのは流石。「DCFとマルチプルは理論的に等価である」という事が心底腹落ちできたのはこのブログを読んでから。

 

MBA x 総合商社道場|hei29さん

総合商社で事業投資に従事されており、新興国企業評価時のTips等はとても実践的。ニューヨーク大学Damodaran教授の公開しているRisk Premiumデータは、ここで初めて知った。


一鳴驚人日記|bisumaruk2 さん

外資投資銀行M&Aに従事されているという方のブログ。退職給付債務の論点等、細かいテーマの解説は勿論、FAの介在価値や交渉の作法について等、学ぶことが多い。


 ◆財務モデリングと事業再生|財務モデリング研究会さん

事業再生のプロの方が書かれたブログ。財務モデリングにおける法人税や企業再生税制等、税務関連の記載が詳しい。最近はアクセスできなくなっているが、復活が渇望される。

 

3-2: 作業/完成イメージを持つ

 ◆タイムラプス動画|by. Corporate Finance Institute® (CFI)

お手本の様な手捌きと様式美のデモンストレーションが見れる。音声をOffにしてスロー再生すれば一連の流れが感得できる、なお、公開元のCFIのwebsiteからOnlineの学習コースが受講可能(※有料)。

 

外資系投資銀行の社員による財務モデリング例|財務モデリング本格入門さん

つい最近公開されていた動画。最初に躓きがちなポイントである、現預金のバランスまでレクチャーされている。日本語で公開された無料の動画としては初かと思う。比較的シンプルなモデルでまずは三表を作成し、BSがバランスするという実感を得るところまで解説されているので、入り口として最適な動画。ショートカットの解説も親切。

 

3-3: 自分でモデルを組んでみる

Mergers & Inquisitions / Breaking Into Wall Street
英語のYoutubeチャンネル。LBO、Startup評価から連結の作法、US GAAPIFRSの相違点までTutorialを網羅。背景にある考え方を丁寧に解説してくれるので、骨太の基礎が身につく。無料公開されているExcelをHPからダウンロードし、解説を聞きながら自分でも操作してみるのがお薦め。

 

Investing.com - FX | 株式市場 | ファイナンス | 金融ニュース

 

CompsやBeta値を取るのに良いサイト。スクリーン機能が便利で、各企業の財務諸表、主要な財務指標、世界の各証券市場における市場株価指数国債情報まで取得が可能。経済指標カレンダーも重宝する。個人でBloomberg端末を契約できる人はいないかと思うので、代替ツールとしてお薦め。



結び

とりあえず簡易的かつシンプルなもので良いので、一度自分でモデルを組んで見ることがはじめの一歩。その際、他人の作ったフォーマット/テンプレートを拝借するよりも、自分でスクラッチで作ってみると良い。自分の頭を使って作れば理解せざるを得ないし、苦労して得た知識は忘れない。各論の細かい話はあるが、それは後で土台が固まればいくらでも掘り下げる事はできる。

 

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読んで下さった皆様の勉強の一助となる事を願います。そして何より、末尾となり恐縮ですが、ここに紹介した書籍の著者、ブログ/Websiteの管理人の方々への謝意と敬意を表したいと思います。