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企業文化の重要性を侮ってはいけない - 『海外大型M&A大失敗の内幕』読後メモ

企業文化の持つ重要性について。とりわけ、M&A或いはマイノリティ出資を検討する場合、その重要性を低く見積もってはいけない、という話。

 以前の自分はどちらかと言うと、企業は特定の事業目的に為に集結した個人の集合である、という個人に視点を置いた企業観に近かった。

 

しかし、それなりに社会人としての経験を積み、ある企業グループと別の場面で関わるような経験も少なからずし、また出資を伴う案件に複数関与する中で、次第に見方も変わってきた。

やはり企業には企業独自の文化、社風があり、そこに属する個人も少なからずその文化の色に染まっているのである。

あくまで主観的な評価になるが、良い企業には良い文化がある。それは創業以来、連綿と蓄積してきた当該企業の事業の軌跡、節目節目、各現場で行われてきた個別の意思決定の集積そのものに他ならないからだ。 

 

有森  隆氏『海外大型M&A大失敗の内幕』、第5章「松下電器産業 - 戦略なき財テク買収の末路」では、1990年11月、松下電器産業(現パナソニック)が米ハリウッドの娯楽・映画会社MCAを買収した事例が紹介されている。買収額は61.3億ドル、当時のレートで7,800億円と、日本企業のM&A最大となる、米国企業の買収案件であった。

MCAはユニバーサル映画の本元であり、スティーブン・スピルバーグの『ジョーズ』、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』等、数々のメガヒットを送り出してきた名門である。

 

松下電器は一円の価値を大事にする会社で、マツシタ銀行と呼ばれた。大作映画に一〇〇億円、二〇〇億円を投じるのが当たり前のハリウッドの文化とは、水と油だった(P.119)

 

堅実経営を旨とするメーカー企業の松下電器と、ハイリスクハイリターンの映画会社MCAでは、思想からしてよって立つ基盤が違うのは明白と言える。

 

バブルに浮かれ明確な戦略を欠いた買収の結果、松下の財務は弱体化し、バブル崩壊と共に悪化の一途を辿った。買収から5年後の1995年5月、松下は持ち株の80%をカナダの酒類大手シーグラムに57億ドル(≒4,700億円)で売却。決算上、売却損として1,642億円の特別損失を計上し、568億円の連結最終赤字となった。

 

個人的には、松下の企業文化も称賛すべきものとはとても言い難い。松下家の家訓では「失敗の責任は使用人に帰すべきもので、主が負うべきものではない」という。

売却後の決算発表会で、創業者の松下幸之助の婿養子にして二代目社長(当時は会長)の正治は、一言もMCA問題に触れなかったという。買収時、「決断したのは私だ」と喜々として語った本人が、沈黙を貫いた。そして、トップ自らの経営責任を問わず、経理部トップを務めていた平田(当時副社長)を更迭する事で、幕引きを図ったのである。トップは責任をとらない。これが松下電器の企業文化となった。

なお、正治は2012年7月に他界しているが、死ぬ直前まで「取締役相談役名誉会長」として、取締役の座に居座った。堕落した忖度の文化としか言いようがない。

 

企業文化や組織風土は、当該企業の事業の軌跡、節目節目、各現場で行われてきた個別の意思決定の集積そのものである。だからこそその重要性は経営の質を図る上で非常に重要な要素であり、企業文化や企業の風土が異なる買収は必ず失敗に終わる。

従って、企業経営/企業分析においては、財務等の定量的な要素は勿論だが、企業文化や組織風土等、定性的な側面を決して軽んじてはいけないのである。

 

 
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