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交渉の作法 - いかに正しく闘うか

序 - 人を動かす、ということ

人を動かす、という事は何かにつけ骨が折れる。人は皆、固有の自我を有し従って異なる利害関係を持つ。同じ組織であってもそれは一様ではなく、無数の思惑が複雑に絡まり合い錯綜する。その煩わしさ故、人との交わりに背を向けて厭世の仙人の様に生きる事は容易い。

だが、何か社会や組織を変革する大きな事を成し遂げようとするならば、そこから安易に逃げ出す事はできない。人を巻き込まずに成し遂げられる事には、限界があるからだ。

 

この点、平時であれば日本企業お得意の根回しを始め、イソップ寓話「北風と太陽」の太陽さながら段階的な手順を経てコンセンサスを醸成していくのが、波風も立たず好ましいだろう。無用な対決は避けるべきである。

しかしながら、時には北風も慄く迫力で“闘う”事、つまりは対決さえ辞さずに意見を主張すべき局面がある。それは、道理に外れた判断が行われ、それが黙殺されようとしている時、或いは海外への大型投資等や大掛かりな組織再編等の局面で、社内ポリティクスにより合意形成が難航し、案件自体が握りつぶされようとしている時などである。こういった時、カーネギー流の「人を動かす」戦略は余りにも無力である(あなたが晩年のカーネギー並の富と名声、地位を手に入れていれば話は変わってくるが、そんな人は一握りだろう)。

時には刺し違える覚悟で“闘う”事ができないならば、その声は握りつぶされるのだ。そこではヤワな交渉ではなく、ストリート・スマートに根ざした交渉術が求められる。

 

本題 - 【私的】喧嘩、或いは交渉の作法10か条

1. 「目的」を明確にする

全ての交渉に臨む前に、まずもってしなければならないのは交渉の目的を明確にするという事だ。何を・どうやって主張するか以前に、それによって何を達成しようとしているのか。ゴールが不明確なまま喧嘩をするのは文字通り「目的を見失っている」。闘う、という事は少なからずリスクを背負っているという事を意味する。和解できず敵を作る事もあるし、企業人であれば左遷される事もありうる。目的なしに闘うのは、ただの犬死である。己の感情を意識の流れのままつらつら語るのは阿呆である。

交渉の目的は自分が予め設定したゴールに至る事、その為に相対者、或いは組織が動けば良い。言い換えれば、交渉の目的は合意に至る事や説得する事ではない(同じ効果を手にできるのであれば、合意に至る事が望ましいのは言うまでもない)。

2. 相手の立場で考える

交渉にあたっては、相手を知るという事が肝要である。交渉の目的は自分の目的を達成する事だと述べたが、目的の達成の為には相手をその目的実現の為に「動かす」必要があり、大きく3点をまず把握しなくてはならない。

それは、①相手の関心事及び優先順位、②情報の非対称性、③相手の権限の範囲(つまり物事を「動かす」事ができる領域であり制限)である。

相手の関心事は必ずしも経済的な利益のみに限らない。メンツの為に主張に固執する人もいる。そこがクリアになれば、闘い方の道筋も描けるはずだ。つまり、相手側の誘因のロジックを知る事で、どこを攻めれば自分の主張が通り易いか、どこを妥協してやれば“おみやげ”になるか。それは自分にとって重要性が低い事柄なら、“肉を切らせて骨を断つ”べきだ。

また、対決の姿勢で臨む以上は安易に引き下がるべきではないが、一方で常に逃げ口を用意してやる事は忘れてはならない。逃げ口がない、と思わせれば相手は感情的に反応する。

3. (超)簡潔に論点を宣言する

そもそも人は他人に興味がないし、話を聞いていない。感情的になりがちな交渉の局面では尚更である。従って、小学生にも解る程度の簡潔さで論点を宣言する事だ。論点を定義できれば、議論を掌握できる。

4. 論理と情動を区別する

よくやる間違いは、最初から感情むき出しで挑んでしまうという事である。これを混同して話をしてしまうと、一般に受け手から否定的な反応をされる。

感情自体は、交渉における一つのツールであり、また人を動かす強いパワーがあり時には敢えて怒りを演出するなど、積極的に利用すべきだ。しかし、議論の土台はあくまで論理である。また、対決の議論においては自覚なく感情に流され、また平時と同様に抑制する事も難しい。従って、論理と情動を区別する、という事は常に肝に命じておくべきである。

5. 正論で勝負する

人を動かす最も強力な武器は、公正の感覚に訴える事、つまりは正論である。

「ビジネスや組織の論理以前に人として正しいか、それすら分別する感受性まで失い思考停止しているなら己を恥じろ」。

ここまで言うかは相手の出方次第だが、この台詞は自分の知る限り最も強力な言葉の一つである。

6. 主語を意識的に選別/捨象する

闘うにせよ、できる限り衝突は回避した方が良い。その為にも、主語は意識的に使い分ける事だ。

7. 礼儀を失さない

相手が情動に流され、時には罵倒する様な場面であっても、絶対にこちらは礼節を失してはならない。相手が自分を下げた土俵に降りてはいけない。毅然として接する事である。「正論で勝負する」事と似た話だが礼儀を失すれば自分の立場を弱くするだけである。

8. 機を逃さず主張する

一分一秒を争う緊迫した交渉の局面、或いは比較的緩やかに互いの手を探り合い進む様な場面であれ、機を逃さないというのが闘い方の要諦である。何を言うかも重要だが、「いつ言うか」も同じくらい重要である。状況は刻一刻と変わる。機を逃し、後々弁解がましく主張しても既に状況は相手のペースにある、或いはその主張自体が価値を失っている事もある。一瞬の間隙を縫い、急所を刺すように主張を差し込むべきなのである。

9. 生殺与奪権を抑える

闘う以上、刺し違える覚悟で臨むべきである。相手を知った上で、相手の弱みを抑える。その気になれば、こちらも「潰す」事ができる事を示す。但し、直接的に武器を示せば間違いなく相手を不快かつ感情的にするので、それとなく知らしめる方が良い。

相手が組織人であれば、相対者の上席から「刺す」事も一つの究極的には一つの手段である。業界での立場を危うくする振る舞いである事を諭してもよい。この時、先に述べた「正論で闘う」「礼儀を失さない」という2点が欠くべからざる前提となるのである。

10. 決裂を辞さない

時には自分の企図していた目的を達する事もできない場合もある。その時は潔く引き下がる。闘う事を選んだ以上、それは自分にとって譲ってはいけない線であるはずだ。あくまでもこちらも相手方同様、独立した論客として決定権を持っているという姿勢を崩してはいけないし、安易な妥協をしない覚悟を持つ。要するに、腹を括り、計算し尽くして対決に臨む。

 

推薦図書 

武器としての交渉思考 (星海社新書)

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  • 作者:瀧本 哲史
  • 発売日: 2012/06/26
  • メディア: 新書
 

 

交渉の武器 交渉プロフェッショナルの20原則

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