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中田英寿と『キャプテン翼』- ビジョンを持つという事 -

キャプテン翼』というマンガがある。静岡のサッカー少年である大空翼(おおぞら・つばさ)がプロとして世界に羽ばたき、世界のビッグクラブでプレーするまでに成長する、という筋書きのストーリーだ。

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 1981年の連載以降、本作は世界中の少年・少女たちを夢中にし、極東の島国・日本においてもそれまでマイナースポーツの一種でしかなかったこの球技に一大ブームメントを巻き起こし、国民的関心の的にした。連載は現在も続いており、最新話によれば、主人公はスペインの2大ビッグクラブの一つ、FCバルセロナのエースとして活躍しているようだ。

 

この点、作者・高橋洋一氏自身はサッカー少年ではなく、新人漫画家の登竜門とされる手塚賞に応募した際はSF作品で応募したという。しかし、彼を見初めた編集者からの助言もありスポーツを題材とする事を選んだ。この際、1978年に行われたアルゼンチン・ワールドカップに魅せられた経験から、サッカー漫画の執筆を開始している。そういった経緯で連載が始まった本作であったが、元サッカー少年の私から見ても、間違いなく1993年の本邦初のプロリーグ(Jリーグ)の創設に寄与したと考えている。

玄人からすればいささか現実味に欠ける様な超人的プレーの描写は日本をとどまらず世界中の子供たちを虜にし、かの中田英寿本田圭佑デル・ピエロ(前イタリア代表)、ロナウジーニョ(前ブラジル代表)、現在ではリオネル・メッシ(アルゼンチン代表)まで熱狂的なファンが多い。

 

執筆当時の日本には国内のプロチームすらなく、国際大会(ワールドカップ)には予選敗退、海外リーグで活躍する日本人選手は皆無だった。かのキング・カズが日本の高校を中退し、単身ブラジルに渡ったのも本作連載開始の翌年、1982年の話である。

 

しかし、そういった現状にある日本サッカー界とは裏腹に、高橋は日本人のサッカー少年が日本を越え、世界を相手に圧倒的なプレーで魅了する姿を描いた。欧州のトップクラブでプロとして活躍し、世界中の猛者と互角に渡り合う姿を示した。それは、本田圭佑がイタリアのビッグクラブ・ACミランの10番を背負う遥か前の話であった。

 

本作への思い入れについて、本田圭佑は以下の様に語ったという。

本田は日本の有名なサッカー漫画「キャプテン翼」のキャラクター・日向小次郎に憧れていたという。「キャプテン翼」の作者である漫画家の高橋陽一氏は、「僕も本田選手のスタイルは日向小次郎に似ていると思っていた。ある意味、本田選手が漫画を超えてしまったのかもしれない」と語っている。高橋陽一氏は2000年初めに日本サッカーを題材にした「ハングリーハート」を描いている。その主人公の兄はまさしくACミランの10番をつけている。

これ以前にも、「キャプテン翼」で描かれた夢物語のようなストーリーはすでに現実となっている。海外でプレーする大規模な選手団やFIFA U-20ワールドカップで決勝に進むなど、日本人は漫画の世界を本当に実現させている。

出典:本田は決して「ユニフォーム販売要員」ではない!漫画の世界を実現している日本サッカー―中国メディア - ライブドアニュース

 

 

ここにビジョンというものが有する、本質的力強さを見る事ができる様に思う。荒唐無稽と嘲笑れようが、まず目指す世界を夢想し、熱く語る人間が居たからこそ、その夢に熱狂し、それを現実化するプロ選手が現れたのだ。

この点、世界のトップ選手として活躍するだけの強靭な肉体と精神、入団初日には当地の言葉を操る勤勉、報道陣とファンを魅了するチャームを備えていた中田英寿本田圭佑等の素質を持ってすれば、或いは本作の影響なしにでも独力で構想し、成し得た結果とも言え、因果には乏しいと見る事もできるかもしれない。

 

しかし、(プロ制度/若手育成の仕組みの不在、無残な国際試合での戦績等)文字通り何もなかった日本サッカー界において、その現状の何段階も先を行く「日本人が世界を相手に勝負する」という突拍子もない未来・ビジョンを力強く示した本作の果たした役割は、決して少なくないと思うのである。