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人を見極める - 採用に関する私的覚書 -

 

企業における採用活動の重要性

採用についてまじめに取り組んでいる企業は驚く程少ない。

経営の三大要素として「ヒト・モノ・カネ」とよく言われる。モノ(商品開発、設備投資 etc.)とカネ(ファイナンス全般)については各社内部規定を整備し、参照すべき書物も多く存在する。しかし、こと「ヒト」という話題について、他の2要素と同程度に精緻かつ意思決定に至る仕組みに結実できている企業は殆どない。しかし、採用とは、企業が人材紹介会社に払う35%前後のフィーと当該候補者の年俸を足し合わせただけでも単年で1,000万円は下らないという意味で、広義の投資活動であるといえる。翌年以降も発生する人件費、退職金、或いは教育コストを考えれば億単位のコストであり、特に解雇のハードルが高い日本の様な国でローパフォーマーを見極められずに採用してしまう事はリスクも高い。

 

組織体制については内部統制の文脈で上場企業でそれなりに議論されてきた。だが、それはどちらかと言えば制度趣旨からしリスクヘッジという意味合いが強い。

そもそもここで問うているのは一連の手続き自体ではなく、それが事業戦略との連関においてどの程度綻びなく、強固な企業文化、或いはビジョン(企業理念)、ミッション(企業体としての志命)、バリュー(価値観、行動規範)として貫かれているかという事だ。事業戦略としてのHR部門の役割は「採用」「育成」「評価」の3つの大きく分かれるが、「採用」は手続き自体は類型的な型が用意されており、従って比較対照する事で当該企業の「ヒト」に対する取組の質を図る事ができる。育成も評価もまともに制度がない企業はあれど、採用しない企業というものは存在しないからだ。

 

どういった人材を採用すべきか、という問に対する明快な解を即答できないのは、戦略・戦略の解像度が粗いからである。多くの企業にとっての採用はオペレーショナルな次元(言葉を選ばずに言えば、組織内における代替可能な人員の新陳代謝)に留まっているが、本来は戦略的な視座から出発し、その上でオペレーショナルな位相に降りていくべきだ。その場合、人材要件の定義というものが具体的なアウトプットになるだろう。しかし、ボックス・ティッキング式のシートを用意したところで、実態を見れば所詮はヤマカンに外形的な体裁を施しただけに過ぎない。そもそも、言及されている要件・基準自体が一本筋の通っていないトンチンカンなものであれば、評点を与えても何の意味もない。

 

見極めのフレームワーク - 「考える、伝える、巻込む、やりきる」

人材要件を考える時自分は下記の点を意識しているが、これは非常に汎用性が高いフレームワークであると考えている。面接を行う場合はこれまでの経歴、具体的取組(エピソード)、当人の果たした役割(成果への寄与度)、そして将来目指す姿を順に尋ね、その過程でこれら4点を往復的に行き来し、最終的に当該ジョブで求められる領域に達しているかを判断する。

 

  1. 考える力:業務遂行に必要となる職業的知見・能力、実績、専門的資格
  2. 伝える力:プレゼンテーションスキル、文章力、資料作成、語学力
  3. 巻込む力:人間的魅力、他者への配慮
  4. やりきる力:志、問題解決への執着

 

1及び2は想定される具体的な職務内容により自ずと定義できる。この時、短期(Day1~)、中長期(2, 3年後~)の2つの観点から、要求水準に達しているか、或いは達する見込みはあるかを見極める

 

3及び4は当人の素養という性格が強い。本質的な矯正は難しい領域の為、とりわけ育成という観点からは特に慎重な見極めが必要である。書面審査を通し、実際に面接している時点で一定の足切りラインに達しているという前提に立てば、おおまかに1→4の順に見極めを行い、最後の数分を「4. やりきる力」を見極める事に時間を使うべきだ。

 

この時、答えのない問を投げかけ論客として対峙し、彼/彼女がどこまで粘り強く考え、伝えようとする姿勢を崩さないかを見る。その時、本人の生き様の全てが現れるように思う。敢えて緊迫した対峙の状況を演出する事で、(人間的魅力、他者への配慮=巻込む力)も試される。

もっとも、立場を利用した圧迫と受け取られない様、当該議題に対して互いに対等な立場である事を予め強調し、言葉選びや態度には細心の注意を払う、というのが欠くべからず前提である。