リーダーの発するメッセージ

リーダーシップ論なるものが巷では溢れており、自分もまた相応に、テーマとして一定の関心は払っているが、実地の試行錯誤を通じて自分なりに体得し始めてきたことが幾つかある。

 

中でも、"(ポジティブな)メッセージを発信し続ける"ことは、(広義の)リーダーシップにとって最重要の素養の一つであると考えるようになった。ここには、2つの問が包含されている。まず他ならぬ自分自身がその目標・ビジョンなりを信じることが出来るか、次にそのメッセージを組織・チームに行き渡せることが出来るか、という問である。

 

何事においても未来を語るならば、不確実性はそこに所与としてある。転々とする状況において尚、一貫して「こうなる」という確信(conviction)を保持できるかは、とりわけ起業家において重要な素養であろうが、そうでなくとも何らかの立場で組織を統率するにおいては目標なりを語ることになり、対峙する問の抽象度と職責に異同こそあれ、その限りに置いて特段の相違はない。

 

リーダーの発するメッセージは組織に、チームに伝播・伝染する。この影響力を甘く見積もってはならない。言葉はもちろん、日々の行動・振舞い(作為・不作為を問わない)から人はメッセージを感取し、暗黙の規範として染み渡る。当人が意識的かを問わず、ポジティブなメッセージは前向きに作用するし、逆もしかりである。この集積こそが組織文化=カルチャーというものを形作る。

 

相応の根拠たりうる仮説を持ったうえで、可能な限り簡潔かつ明確なステートメントとして共有すること、共有し続けること。繰り返しになるが、これを言葉はもちろん、日々の行動・振舞いから信じられる風土を醸成することを愚直に続ける必要がある。

 

態様に正解はなく、これはひとえに当人の特性によるであろう。必ずしも雄弁である必要はない。また、ひとりで何もかも背負うべきではなく、周囲を育て動かし、自律的な組織文化を作ることこそが、むしろ肝要である。

 

我慢強さというのも時には必要である。それが一定の負荷を伴うような変化、変革に関わる場合、時として何より貴重な時間さえ犠牲にしなければならない。あるファウンダー/CEOはこんなことを言っていた。

If, people were just like chess pieces, you just move them and, and it's over. But they're not. And sometimes you can see a problem and you have to strategize it out so, so if you're moving people around. You don't want anybody particularly to lose confidence in themselves. You wanna be nice to everybody, but you want to accomplish the objective.

So sometimes it can take two years to do something that you know should happen in ten minutes. But if you did it, then you'd break so much glass through the organization that you'd threaten the institution or you'd threaten core people, and there's a way to work that out.

So, time actually, as opposed to some cartoon-like swashbuckling CEO. It doesn't work that way. You have to be careful with every move. You have to give people dignity. But you have to accomplish your objectives. 

So time is something that you give up, sometimes, to do that. And you also have to articulate the core values of your business. And you can never stop doing that.

 

(拙訳)

もし、人間がチェスの駒のようなものであれば、ただ動かして終わりだ。しかし、実際はそうではない。問題が見えていても、それを戦略的に解決しなければならないこともある。誰かに自信を失ってほしくはないし、親切でありたい、しかし目的は達成したい。

時には10分でできることを2年かけてやることもある。無理にそれをやってしまうと、組織を脅かすほどのガラスを割ってしまうことになり、組織を脅かしたり、中核となる人々を脅かしたりすることになってしまうからだ。

だから、漫画に描かれるキャラクラーのようなCEOとは違って、実際には時間が必要なのである。自分の一挙手一投足に気をつけなければならないし、人々に尊厳を与えなければならない。しかし、目的は達成しなければならない。 そのためには、時として時間を犠牲にしなければなりません。また、自分のビジネスのコア・バリューを明確にしなければならないし、これを絶対にやめてはいけない。

 

「だめな社員はいない。だめなリーダーがいるだけだ。価値は人が生み出す。企業で最も大切な財産は人材だ」。こちらは『アリババの経営哲学』に引用されていた創業者ジャック・マーの言葉だが、組織の原理原則として、改めて肝に銘じたい。